個人詩誌『ひやそのほかの』創刊号(1)

個人詩誌『ひやそのほかの』創刊号(1)

2019年11月24日発行

 

 

1 まえがき

 ひとりで潜って地下鉄を泳いでいた。京都市営地下鉄はまっすぐで、陸にあがると轟音が空気を押し出す。いつしかわたしの左耳から中低音が奪われた。

 せとうちの海は閉鎖的な海だという。外海と海水が入れかわるのに1~2年かかる。1~2年かけてわたしはせとうちの海をいったりきたりする。

 小さなフェリーにじぶんの領域をみつけ海の上で日付をまたいでねむるうちに音が戻ってきた。あたらしい音はあたらしい色彩もつれてきた。


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わたしは閉鎖的な海。
 わたしの海に浮かぶ島。
  詩はわたしの海にかかる橋。

2 鍵がかかる――

 

 

鍵がかかる 誰かが家――わたしの家だったこともある家に住んでいる

 

 

3 うみにつづく街


さっきまで ふれていた
わたしの さんびゃくねんの街
川のそこに這いつくばって
蛙のように うんだので
とてもさかえているでしょう
みなもから
しらしらと
街の亡霊はながれて
薔薇のかじつを 胎にむすんだ


街はねむり
夜凪の

ためいきのなかで
ふねをまつ
発掘された
たましいのかたちを
ひきあげるあみを 縒りあわせて


ふみならされ かたくなっていく
わたしの 土地のちぶさ
いま ふねが
かすかにふるえ
港をたつ
成熟した いっせんねんに
うみの かおりが みちている